だってBだから

へんなおじさんたちのブログ。

Monday, July 02, 2007

6月に読んだ本

フィリップ・クローデル「リンさんの小さな子」みすず書房

 涙無くしては読み通すことができない、かもしれない。昔、高校の現代国語の教科書のなかで読んだ「最後の一切れ」という話を思い出した。
 リンさんは某国の内戦で故郷を追われ、フランスの港町にある難民施設に収容されている老人。戦争で家族を失ったが、まだ乳飲み子の孫を胸に抱いている。リンさんは、他の難民とは距離を置き、いつもひとりで乳飲み子の世話をしながら施設でくらしていた。施設職員の勧めで、施設の外へ散歩にでかけるようになったリンさんは、散歩で立ち寄る遊園地で、奥さんを亡くしたばかりの老人と出会う。リンさんはフランス語がわからないし、その老人はリンさんの国の言葉がわからない。それでも、老人は問わず語りに身の上のことや亡くなった奥さんとのくらしをリンさんに語る。言葉はわからなくとも、心情は通じるものらしい。ふたりは日に日に親しさを増して行く。ところがある日、施設の移転に伴い、リンさんは別の施設に移されてしまう。しかも、新しい施設では、勝手に施設の外に出ることが許されない。それでもリンさんは今や親友ともいえるその老人に会いに施設を抜け出すのである。
 人が人として生きて行く上で必要なのは、生理的な欲求を満足させるものだけではなく、精神的な欲求を満たす何かなのである。その「何か」は人それぞれに違うものなのだが、一言でまとめてしまえば他者との関係性であろう。この作品では、リンさんというひとりの難民の生活を通して、人として生きるためにほんとうに大切なことは何かということが語られていると思う。尤も、物語がシンプルなので、読者がそれぞれに抱えている知性や経験によって、さまざなまものを読み取ることができる。難民救済という善意の姿をして、人を畜生のように扱う人間の残酷さ。精神の崩壊を回避すべく現実を自分の都合の良いように曲解してしまう人間の滑稽さや悲しさ。あるいは、その曲解をあえて否定しない周囲の人々のやさしさ。本の帯には「友情と共感のドラマ」と書いてあるが、この作品を読んで本当に「友情と共感」に感動するのは、よほどおめでたい人だけだ。


塩野七生「ローマ人の物語 ハンニバル戦記(下)」新潮文庫

 既に「ローマ人の物語」は単行本で8巻目まで読んだのだが、改めて文庫で読み直している。初めて読んだ時のような興奮は覚えないが、歴史のなかに人の人生を読み取るというのは楽しいことだ。


「小林秀雄 全作品 26 1966−76」新潮社

 池田晶子の著作のなかでその名前が出てくるので、読んでみた。小林秀雄は大学受験のときに現代国語の問題文として慣れ親しんだつもりだが、当然のことながら、それは氏の著作の一端でしかない。改めて氏の書いたものや対談を読むと、たいへん愉快だった。特に「信ずることと知ること」は興味深いことの宝庫だ。


神一行「閨閥 特権階級の盛衰の系譜」角川文庫

 政治家や実業家に二世や三世が多いなと思っていたが、なるほどそういうわけか、ということがわかる本である。

1 Comments:

Blogger NK said...

ローマ人の物語も読んでみたいもののひとつなんだけどなぁ。小林秀雄はなつかしいけど、確かにまともに読んだことはないですね。大人になって読むといろいろ意味も変わるだろうし。評論家って学者じゃないからある種「かるさ」ってあるよな。(NK)

Thursday, July 05, 2007 10:26:00 AM  

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