だってBだから

へんなおじさんたちのブログ。

Monday, May 26, 2008

椿三十郎を観た(NK)

黒澤映画に詳しいわけではないが、森田監督の黒沢ファンぶりはよく分かった。音楽、カメラの視点、色、コントラスト、絵のバランス、ちょっと笑えるところ、などなど。
織田裕二が主役であるところはあまりよいとは感じなかった。全体にキャスティングには異議がある。織田は正直いって踊る大捜査線の影響が強いのかもしれないが、中村玉緒(睦田夫人)の言うところの「抜き身の刀」部分がどうも足りない感じがした。画面や演技は良いのだろうが、顔が合わないというところであって、特に下手とかいうことではない。敵役の反町は割りと顔に合っているが、まあ抜き身というにはちょっと。よく考えてみると、やはり顔というよりも、そもそも抜き身ということについて、私の思うところと監督や役者が思ったところが違うのかもしれない。公募であったという若い侍などはまああれでいいんだろう。若い感じだから。藤田まこと等はまあ愛嬌なのでそれでもいい。悪役としての風間杜夫なども問題ない。
踊る大捜査線と比較するわけではないが、なんとも半端な感じがする。今となっては、当時の黒澤監督の脚本は「古い」という印象で、もうひとつ椿の人間に奥行きを出すか(なぜあんな軽いのに人殺しになったんだろうか、とか)、逆に中村玉緒やその娘はなぜそこまでたおやかに強いのかといった点を深堀していくと面白い気がした。話の筋から少しはずれるのがいやであれば、もっと椿と室田の深入りがあったほうがよかった気もする。昔の映画でもバックストーリーは作ったらしいが、ここではその辺をもっと拡張するとか(もっとも黒澤作品を見ていないのでよく分からないけど)あったのではないか。
色合いとか画面の構成とか(例えば男性の薄暗い着物と女性、椿の色、踊る若侍などなど)は非常によかったが、オリジナリティではなくて黒澤をたどる趣旨があるだけに、あまり高い点を上げられないのかもとは思うところ。
結局、人生ってこんなものとか、組織ってこんなものとかいう部分での納得とか現代性はよくつかめなかった。「灯台もと暗し」なんて格言使ってたけど、江戸時代に灯台ってあったのかねぇ・・、ってのはちょっと気になった。

Monday, May 19, 2008

最高の人生の見つけ方、を観た(NK)

原題は「棺おけリスト」で、棺おけに入るまでにやりたいリストのこと。余命半年を言い渡された対照的な二人が、一緒にリストを書いて旅に出る。グローバーフィールドと比較して、人生にあまり突っ込んだ問題意識があるとも思えないが、いかにも西海岸の太陽の中でアメリカらしく見せる映画なんだろう。
設定は陳腐で、金持ちの病院経営者とまじめな自動車整備工が病院で同室になる。病院経営者は自分の病院に二人部屋しか用意していないのでこうなったという瑣末なリアルさはある。ふたりとも癌で余命いくばくもないことを知る。信心深い整備工は、棺おけリストに、人を幸せにする、とか書いていたが、経営者は、世界一の美女とキスをするなどと書き加えていく。友達になったふたりは、これを実行するために世界を旅することにする。
もっとも、金持ちが考えることがキャビアを食べたりすること(ただ思い出があるのだが)だったりするが、まじめだった整備工がなぜ人にたかって軽々と旅行するかは最初はつかめない。スカイダイビングやチベットの山登り、ピラミッド見物は目的ではない。サーキットを借り切ったときにちょっと熱い部分が出てくる程度なのだ。
この話が光るとすれば、まじめな整備工は、何に向き合いたかったか、というところだ。結局妻が家族になってしまっていた、子供が独立した、自分がふとやることがなくなっていた、という誰でも出会うふとした空白に、遠くに行くことで向き合い乗り越えたかったのだ。経営者は「長らく会えなかった娘に会いたいということを隠している」というありふれたプライドとの戦いみたいなものしかないのだが、この整備工は本当は学者になりたかったタイプだけのことはあって、いろいろ深いことを考えているのだということはまあ小さな見所だ。結局夫婦が向かい合う瞬間はわずかだが実現し、それぞれがちょっとゆがんだ思いを秘めたリストは消しこまれて終わる。
ジャック・ニコルソンの怪演はいつものように見ものではある。全体には「ええ話や」という快感も残る。棺おけリスト作ろうかな、という気にもなる。家族との関係を見直そうとは思わないが、ただ記録することが人生や家族の意味だというほどのリアルの追及(自分にはかなり説得的だったが)ではない常識的な観点をもつことができる。たぶん、これから何をするか、というリストであることが、これまで何をしてきたか、のリストよりも重要だということは、人生の最後まで言えるのだ。やったことが少ない若い時期ほど履歴書が意味を持ち、歳をとるほど持たなくなるのと似ている。